令和3年12月定例会 閉会 報告その2

続いて、請願を採択する賛成討論を行いました。

通告に基づきまして、請願第3号、中津江ホール解体・廃止方針の再検討と同ホール存続に関する請願書の原案について、賛成の立場で討論を行います。
今回の請願は、中津江ホールを愛する会が、8月19日に240名の賛同署名とともに提出され、9月の市議会定例会では継続審議となり、今回の12月まで閉会中も審議してきたものです。

請願の内容は、
1.中津江ホールの解体を決定し計画を進めることとなった詳細な経緯を明らかにすること。その際、築後26年目の中津江ホールが老朽化したと判定する根拠を示すこと。
2.230万円かかると示された中津江ホールの年間維持費を、日田市内の他のすべての公共施設の年間維持管理費と比較した上で多寡を示すこと。
3.大規模改修した場合約7,000万円とされる費用とは具体的にどのような内容か。また、その際の積算根拠並びに算出方法を、建物面積並びに外壁面積を見積もる際の1平方メートル当たりの単価を明示しながら積算すること。
4.現在、計画されている建物の延べ床面積や敷地の詳細な内容を明らかにし、複数案を示すことで比較検討すること。良好な統合再建敷地と評価された当該敷地の中に位置する池の山の集落センターの敷地を含めた総合的な計画案についての考えを示すこと。
5.本年8月時点で240名を超える中津江地区住民及び支援者が、中津江ホール存続へ賛同し署名を行った成果に立ち、担当部署と代表者会議のみで計画を進めていくのではなく、複数回にわたる住民参加による意見交換会を通して希望や提案を吸い上げていくこと。

請願を提出する以前、8月10日に1~4の内容について、日田市長へ要望書を提出しています。これに対し、日田市は

解体を決定した経緯は「検討を重ねてきた結果、敷地の制約から中津江ホールとの併存は困難であり、ホールについては、老朽化や利用実態を踏まえ、解体した上で、公共福祉施設の整備を行うとの判断に至った。」

中津江ホールを老朽化していると判定した根拠は、「約7080万円の改修費用をかけなければ長寿命化が図れない状態となっていることから、老朽化が進行していると考えた」
といった回答をしております。

何度も繰り返される、「検討を重ねてきた結果」。
中津江ホールを愛する会は、この「検討」の具体的な内容をわかりやすく示していただきたい。
また、住民説明会において示された整備案一案を原案として確定とされたが、なぜ、その一案のみしか選択が無かったのか。複数案を比較検討することができないのか。確定した以前の複数案を示してほしい。大規模改修の根拠を示してほしい。
と要望してきました。

議員の多くも、現地において施設状況を目視で視察されてきましたが、その際、建物の正面の外装仕上げ材として地元産材の杉が用いられた結果、27年も経つと一見ボロボロになっている、そこから雨漏りが生じている、と問題視された方も少なくなかったと思われます。

中津江ホールを愛する会は、複数の専門家に協力してもらい、施工時の図面をもとにしながら目視調査を実施した結果、現在の状況を維持存続することが十分可能であると評価した結果を得ています。
この際、意外な判定と、今後の大規模改修への段取りを聞き、驚くことがありました。

創建当時の建築設計を進められた建築家の後藤茂先生は意図的に地元産材の活用振興も含め木造ホールを設計されたわけですが、それが功を奏し、木造ゆえの特性が、この外装仕上げ材の状態にも反映されている、との説明を受けました。

すなわち、築後27年も経た外装材の杉板材は、太陽日照による暴露や風化により、表面のやわらかい夏に成長する材の箇所が痩せ、冬を過ごした材の箇所が残る、そこから繊細な筋を浮き彫りにした表面が生み出される、ということになりますが、これを建築専門の世界では「うづくり= 浮づくり」と称します。
わざわざ杉材をはじめとする外装仕上げ材を風雪に耐えたとする表現で用いる技法のひとつだといいます。

一例として、大分県内でも有名になった竹田市長湯温泉のラムネ温泉館の外装仕上げ材は、わざわざ最初に杉板の表面を焼いた焼杉(やきすぎ)技法で作られたものです。
これも「うづくり」の一手法であり、中津江ホールの外装仕上げの状態と似ているとのこと。
専門家の所見は、わたしたちが見た目だけで判断しがちな素人考えを、より技術的・材料的に合理的な説明を与えてくれると同時に、経済的な側面からも重要な観点を示唆するものでした。

さらに、これまで行って来なかった大規模改修が、今後必要になるとしても、その際の、適切な改修案を段階的に示していくことが重要であり、そこから現在選ぶべき方策を考えていき、さらなる手当てを考えていけば良い、との現実的な判断を提供してくれています。

以上より、中津江ホールを愛する会へ、改修内容と必要経費をセットにして、4案提示できる用意があることを伝えています。
中津江ホールを愛する会が、市役所担当部署に対して、複数案を検討した経緯、検討した内容、そうした中からどのような評価や判断で、もっとも優れた案として、今示されている整備計画案が生まれたのか、を情報として示してほしい、と粘り強く要望してきたのか、こうしたみずから学び、みずから考えていたからであり、まさに日田市自治基本条例がめざす市民協働や市民参画を体現するものであったのです。

さらに、同じく専門家に協力してもらい耐震状況も調べた結果、木造ホールであるものの、鉄筋コンクリート造による基礎周りは堅牢(けんろう)な状態です。市役所が実施した公共施設の耐震調査を確認したところ、中津江ホールは問題なし、との結果でした。

このため、中津江ホールが大規模改修をせずとも、必要な改修を計画的・段階的に行っていけば、長寿命化は十分に可能であると示してきました。

ちなみに比較すべき対象として、旧郡部にある大山文化センターがあります。
同施設は鉄筋コンクリート造でしたが、建設から40年以上が経過し、耐震にも問題があるため、昨年度から数億円の予算をかけて改修工事を進めています。

本議会の一般質問において、中津江ホール解体理由の一つとして、利用者の減少について、が指摘されました。
そのうえ、公共施設等総合管理計画 個別施設計画の「他に機能が重複し、利用者数や将来の需要見込みが低迷する施設は、廃止します。」を根拠の一つとしていますが、「他の機能が重複する施設」とはいったい何であったのかと質問があった際、教育次長は、「重複する施設は中津江公民館」をあげており、大山文化センターと重複する施設とはされておりません。
旧郡部のさらなる奥深い中山間地域に中津江ホールが残されれば、この大山文化センターとも公演企画の共同化や利用客の補完作用をはじめ、地域独自の文化活動拠点として固有性を発揮し合うところから、連携ができるもの考えられます。

今回の請願を通して、一部ではなく賛同署名を通して声を重ねていかれた多くの地区住民・また賛同者から最も根強く要望されたものが何であったのか、
それは次のようなことです。

まずなにより、市民のみなさんの貴重な税金や国、県などからの経済的補助や内容的指導を受けながら進めていく事業である場合、常に市民のみなさんへの情報公開と合わせ、事業をわかりやすく伝えながら納得を取り付けていくためのアカウンタビリティ(説明責任)が求められました。

通常の自治体ならば、複数案の計画案を基礎資料とし、メリット、デメリットなどをわかりやすく示しながら、ステークホルダーとしての地区住民やホールの利用者や福祉や教育・文化施設・建築などの専門家とともに今後へのさまざまな提案を吸い上げる努力をするものです。

中津江ホールを愛する会は、建築やホールマネジメント、福祉、幼児教育、法律の専門家に協力してもらいながら、今回の計画について、学びを深め、議論を重ねていきました。
そこでは、津江地方が開かれた歴史から人の営みを振り返り、さらに中津江ホールが計画された背景を紐解いていきました。

すなわち、中津江ホールは、当時の中津江村が1991(平成3)年の台風19号による未曾有の風倒木被災から復興するために計画しものでした。村の誇りとも言える地元産材の日田杉をふんだんに使用した中津江ホールを建設し、文化や芸術の力で、地域を蘇らせ、定住を促進するために池の山ニュータウンを整備するといった壮大な目的のもとに進められたものでした。

実は、現在の中津江ホール敷地は造成で生み出したものです。隣接する津江中学校敷地を造成するために切り出された残土を処理する目的を含め他にはないような広大な敷地を造成しています。そこには、順次、ホール付属施設をはじめ、文化、福祉、医療、観光案内施設などを整備していく将来の計画も構想され、そのためわざわざ中津江ホールは敷地もっとも東端(はがしはし)に位置させる計画としました。
けっして駐車場を広く取ったわけではなかったのです。

そして、当時の坂本休議長や担当者や設計者の後藤茂先生によれば、敷地入り口からの長いアプローチの両脇には、中津江村の生活文化センターのような拠点化をめざしながら、後続(こうぞく)の施設を計画できるように配慮した、といいます。
まさに日田市が進めようとしている、高齢者福祉施設整備事業やこども園整備事業と合致するものです。

しかし、ひとつだけ異なるのは、かつての中津江村の計画は、あくまで中枢に中津江ホールを据えた文化によるまちづくり計画であったのです。
それは、わたしたち日田市民もまた、かつて、どこかで聞いたような話ではなかったでしょうか。

次に、中津江ホールを愛する会が求めたのは、わが国でも屈指の木造という特徴を持った公共ホールとして高く評価しうる中津江ホールが、なぜ、中津江公民館に付帯する施設として、誰もが理解でき、誰もが納得する指定管理制度下でのホールマネジメントと予算計画を持ってこなかったか、ということでした。
そして、このような、より専門性の高い建物診断や将来計画へ向けた活動には、複数の専門家による伴走を生み出していきました。

そこで中津江ホールを愛する会では、存続を求めると同時に、今後のホールマネジメントを検討し合っていきました。

具体的に、どのような人材や事業計画や資金が必要なのか、ホールを残した際の管理運営する受け皿として、公民館や地域住民だけではなく、大学や市民団体、専門家集団や音楽家・劇団などあらゆる人との連携や協力で運営していく方法論が構想しうる、あらためて誰もが理解でき、誰もが納得する指定管理制度を生み出すべき、といった具体的な提案を重ねていました。

そのうえで、日田市による安寿苑の移転・再建という高齢者施設整備計画を自分たちもなにより願っており、そこにはぜひとも中津江ホールを残すことで、こども園や高齢者施設と連携した特色ある事業が展開できるようなビジョンを見せてほしい、と強く提案しています。

そういった数々の提案を含めて、中津江ホールを愛する会は、請願の中、特に5の「担当部署と代表者会議のみで計画を進めていくのではなく、複数回にわたる住民参加による意見交換会を通して希望や提案を吸い上げていくこと。」を強調しました。

今回の市議会における教育次長は、答弁の際に貴重な240筆の賛同署名のことを忘れたのか、何度も「中津江地区の一部の声」と言われていましたが、これは署名者の方々へ、たいへん失礼な表現であったと指摘しておきます。

そのように言われた方々が、なぜ日田市議会へ向け、やむをえず請願を提出しなければならなかったのか、その一番大きな理由は、まさに市民を度外視しながら行政を進めていく、という市役所の体質、そのものにあると言えるのです。

あらためて請願を出された際の紹介議員をつとめた者として、声なき声として、塞がれてしまいかねない中津江ホールを愛する会の方々にかわり、たいせつなことをもう一度重ねて繰り返しておきます。

今の中津江村にとって、なによりもたいせつなことは、令和2年7月に被災した安寿苑再建です。
一日でも早い計画の実施と整備事業の遂行が望まれます。
今回の中津江ホールを存続してほしい、と要望することは、そうした再建へ向けて反旗をひるがえすものでも、整備計画をむやみに長引かせ、住民の安全安心な生活を脅かしたいわけでもありません。
安寿苑再建への思いはまったく一緒なのです。

しかしながら、一方で、中津江地区のさまざまな声を丁寧に吸い上げながら、こうした公共施設の整備計画を進めていかなければ、それはかつて揶揄された「ハコモノ」づくりで終わってしまいかねません。
中津江ホールを愛する会は、せっかく、現在ある中津江ホールをもっとたいせつに使っていきたい、これまで利用したことがない方々にも魅力を伝えていきたい、次世代のこどもたちにも素晴らしい全国屈指の誇りうる木造公共ホールがある、と未来志向の可能性へ思いを向けていこうとしているのです。
そうした声を反映していくことが、本来の文化を生かしたまちづくりや地域づくりではないのでしょうか。

行政など一部の限られた方々で検討していくよりも、市民が計画に自発的に参画し、よりよい案にしていくことが、日田市の目指すべき「市民が主役のまちづくり」でもあります。

先日、いみじくも原田市長が、これからの地方自治は、おまかせ民主主義ではいけない、と強調されていました。

あえて申せば、私もこの考え方に、まったく同感です。
ただし、注意深く聞いていけば、じつは誰が誰におまかせしているのか、が問われなければなりません。
今回の中津江ホールを愛する会を事例として見ていけば、市民が行政におまかせしているのではありません。
その逆なのです。

行政が、市民は考えなくて良いから自分たちにまかせなさい、と勝手にことを進めてしまうことに対して、中津江ホールを愛する会は疑義を感じ、やむなく日田市長への要望書や、日田市議会への請願書を訴えてきたのです。

また、中津江振興協議会から、本年2月に提出された要望書や6月に提出された同意書には、「中津江ホールを無くすことは断腸の思いである」と地区住民の思いが記されております。
中津江ホールを愛する会では、「断腸の思い」があるならば、まさに住民参加の意見交換の場を生み出してほしいと願ったのです。

際限のない話し合いを何度も繰り返してほしいと願ったのではありません。適切な情報開示や情報共有、そして意見交換を行っていけば、中津江ホールを解体する・しないだけではなく、津江地域一体の今後の暮らし方まで考えていくことができると訴えてきたのです。

まさに、おまかせ民主主義を逆手に使いながら、勝手に整備事業案を進めてしまってきた行政へ向けて立ち上がった中津江ホールを愛する会こそ、みずから考えみずから行動する自治のお手本とも言える、意義ある民主主義の事例を私たちに目の前に見せてくれています。

日田市行政が責任転嫁ではないか、とも言われかねない態度で、住民自治組織や代表者会議に無責任におまかせしてしまうのではなく、市民がみずから、計画に自発的に関わりたい、参画したい、という思いを市政に反映していくことが必要です。
そして、そうした市民の願いを後押しすることが、議会の役割だと考えます。

私が、このたびの請願を採択すべきだと賛成するのは、以上の理由によります。